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 研究インタビュー

    「コンピュータ・アーキテクチャ」

     (話:坂村健 教授、聞き手:中尾彰宏 准教授)

 

 


中尾:
坂村先生といえば、この分野ではTRONやユビキタスで有名ですが、先生の研究室ではどのような研究をされているのですか?

坂村:
一言で言うと、コンピュータ・アーキテクチャの研究です。未来のコンピュータはどうあるべきか、そういったことを追求するのが私の研究室のテーマです。

中尾:
コンピュータ・アーキテクチャというと、OSやプロセッサの設計といったものを思い浮かべます。

 

 

 

 
坂村教授


坂村:
もちろん、そういったものも重要な研究課題です。実際そういう研究もやっておりますし、現に私がデザインしたITRONというOSは、組込みシステムの世界では広く使われていますから。

ただ、私にとって本当に興味があるのは、そういった技術要素の上に新しい情報インフラを作ることです。
今、情報技術は新しい時代を迎えつつあります。どこにでもコンピュータがあるし、インターネットも世界中につながっている。それに、ほとんどの人が携帯電話を持っている。こういった時代を支えているのは、当然ハードウェア、OS、セキュリティをはじめとした技術要素の成熟です。もちろん中尾先生の研究なさっているネットワークも重要な技術ですね。

それでは、こういった技術をどう使えば何ができるのかというと、実は分からないことがたくさんある。
私は「理想のコンピュータ」を思い描いて、それを実現するために何が必要なのかを明らかにするという、言わばトータルアーキテクチャの研究を進めてきました。当然、足りないものがあれば、それを作り出す必要もあります。
総合分析情報学コースを作ったのも、実世界で求められていることを、情報技術でどのように解決できるのか考えられる人材を育成したかったからなんです。コンピュータが可能にする次世代情報インフラをデザインするという意味を、コンピュータ・アーキテクチャという言葉に込めているわけです。

中尾:
最近ですと、坂村先生は「ユビキタス」で有名ですね。今なぜ「ユビキタス」なのですか?

坂村:
ユビキタスコンピューティングは、非常にイノベーティブな技術だからです。世界を、というと大げさかも知れませんが、少なくとも社会のインフラを再設計するだけのインパクトを持っていると確信しています。ほんの一例ですが、物流、食品トレーサビリティ、医療、位置情報サービスをはじめとした多くの応用分野において、大きな技術革新をもたらすと考えています。

私はずっとTRONプロジェクトを進めてきましたが、これは「理想のコンピュータ」を作るプロジェクトです。
ここで私が当初から思い描いていた答えの一つが、「身の回りのあらゆるモノに埋込まれたマイクロコンピュータが、相互に協調しながら私たちをサポートしてくれる」ことでした。これは、まさに今でいうユビキタス・コンピューティングに他なりません。

 

ユビキタス・コンピューティングの実現イメージ

ユビキタス・コンピューティグというと、RFIDタグのような小さなコンピュータやセンサーを使うことと思われがちです。しかし本質はそうではなくて、ヒトがコンピュータを意識しなくてよくなることなのです。そのためには、モノや環境に埋込まれたコンピュータが実世界の状況を理解し、状況に応じて自律的に動作できるようになること、つまりコンテクストアウェアネス(状況認識)が鍵となります。
RFIDタグやセンサを使うことは、このようなコンテクストアウェアネスを実現する手段に過ぎません。

物流を例に挙げれば、今はヒトがモノを届けていますよね。しかし、本当にコンテクストアウェアネスが実現すれば、自律的な物流が可能になるはずです。モノが環境と相談しながら最適な輸送経路を計算し、自分自身を届けるようになるのです。

こうしたコンテクストアウェアネスを実現するための基本アーキテクチャとして、私はユビキタスIDアーキテクチャを提案しています。
細かい話は省きますが、このアーキテクチャでは、物や場所といった状況を構成する個々の要素に、世界中で一つだけのIDを割当て、そのIDを使って実世界の状況に応じた情報処理を実現します。

実際に、このアーキテクチャの上で、先に上げた物流や食品トレーサビリティ、医療、位置情報サービスといった応用分野でのさまざまな実証実験プロジェクトを行っています。そして、いくつかの応用分野においては、すでに実用化を達成しつつあります。

 

坂村研究室でのユビキタスコンピュータの研究開発とその応用例

中尾:
なるほど、すごいですね!
坂村研究室のメンバーは、どんな研究生活を送ることになるのですか?

坂村:
私の研究室では、たくさんのプロジェクトを推進しています。先に上げた実証実験プロジェクトもそうですし、それ以外にもアーキテクチャ自体を実現する要素技術を研究開発するプロジェクトもあります。
こういったプロジェクトは東京大学で閉じたものではなく、私が所長を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所とともに、さまざまな民間企業、国内外の研究拠点と連携し、まさに世界規模で展開しています。

ユビキタスIDアーキテクチャの国際展開拠点

 

研究室スタッフはもちろんですが、学生にもこういったプロジェクトに入ってもらって、実際にその活動を通して研究課題を見つけてもらいたいと思っています。よく大学の研究室だと、論文を読み漁って自分で研究テーマを探すという事を行います。もちろんこれも大事なことで、うちの研究室でも定期的に勉強会を行って、学術論文の読み書きやプレゼンテーションの訓練も行っています。
しかし私は、それだけではなく、OJT(On-job training)的に最先端の分野で何が求められているのかを肌で感じてもらうことが大事だと思ってます。
もちろん大学院に入りたての学生にとっては、決して楽なことではないでしょうし、いろいろ戸惑うことや苦労することもあるでしょう。しかし、逆に言うと、学生の研究成果が本当に実社会で使われるチャンスがあるということです。

ここ数年だと、自律移動支援プロジェクトというプロジェクトが一つの大きなプロジェクトです。これは都市環境にユビキタスインフラを整備することで、障害者の移動支援をはじめとしたユニバーサルデザインの空間情報サービスインフラを実現しようとするプロジェクトです。
例えば今年の修士一年生の何人かは、このプロジェクトの中で、空間情報ポータルサイトの構築や、歩数センサの開発、移動支援のためのガイドライン整備といったテーマに取り組んでもらっています。もちろん一人でやるのではなくて、私や越塚准教授をはじめとした研究室スタッフの指導の下で、一生懸命、研究課題に取り組んでいます。

中尾:
坂村研究室を希望する学生に求めるものはありますか?

坂村:
まず、やる気と知的好奇心。そして、いくらかのコンピュータの知識です。
特に「今まだ世の中にないものを自分で作ってやる!」という気概のある学生に来てほしいですね。

よく研究をしていると、そんなの無謀だ、出来るわけないだろ、みたいなことを言う人はいます。
私がTRONでユビキタスコンピューティングの研究をはじめた時もそうでした。部屋に何百もコンピュータを埋めるなんて、一体いくらかかるのか。パソコンが一台100万円した時代ですからね。
でも今やそんなこと誰も言わないでしょう。私に言わせれば、やっと世界が追いついたんです。
若い学生には、今から10年後、20年後、どういう世界になるのか、そういうところまで思いを馳せて研究してもらいたい。

坂村研究室での生活を通じて、大きな目標に向かって、何が課題になっていてどうすれば解決できるのかを考える、そういう力を身につけてほしいと思っています。 卒業後、アカデミックの道に進む学生も就職する学生もいますが、どちらに行った場合でも、坂村研究室での経験は貴重な財産になると思います。

 

   
       
   
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